FUKUDA SEMINAR
メディア経験の分析
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私たちの日常を彩る、メディアの特徴とは…
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メディア経験の分析
メディアは私たちにさまざまな体験をもたらします。私たちの人生という舞台に、それはもう感動的で創造的ないろどりを与えてくれる。でもそれは、決して当たり前のことではありません。体験をもたらす舞台装置——メディアは、おのおの特性を持っており、私たちはそれらを無意識に享受しています。もしそういった、メディアをメディアたらしめる何かに気づくことができたら、あなたは舞台の上でただ踊らされるのではなく、その全貌が見えるでしょう。そのメディアにしかない固有の特性を追求するための軸——これが「メディア体験の分析」です。
この研究軸では、「この体験はどうしてこのメディアで生まれるのか?」という問いを中心に据えます。先ほど述べたように、メディアはそれぞれ異なる構造や仕組みを持っています。このような「見えない仕組み」を丁寧に言語化し、他のメディアでは代わりにならない体験の質を明らかにしていきます。
ここで大切なのは、受動的にメディアを「味わうだけ」の立場から一歩外へ出ることです。自分が何を感じたのか、なぜその表現に惹かれたのか。それを支えているのは、どんな構造や特徴なのか。体験の裏側に潜むレイヤーを探る作業は、メディアの存在を浮き彫りにしてくれます。
例えば、あなたが今この文章をスマートフォンで読んでいるとして、スマホは便利で多機能ですが、本来は「どこでも人とやり取りできる」通信機器なわけです。今でこそ当たり前なことですが、私たちはこれによって奇妙な体験を得ているわけです。
それはまるでその場にいないはずの友達を、ポケットに入れて連れ歩いているような。携帯電話を失うと、とたんに世界から切り離されたのではと不安になるような。
このように、メディアの存在に気づき研究を深めるほど、自分が普段体験していることがどれほど特殊で、どれほどメディアに依存しているかにも気づきます。あるメディアの存在によって可能になった体験もあれば、別のメディアには不可能な体験もあります。つまり私たちの日常は、実はそのメディアが持っている特性と常に、密接に関わっているのです。
また、この軸で身につくのは、対象を見る目の「細やかさ」です。あなたが「これは良い」と感じたとき、その理由を精密にたどり、どの構造がその体験を生み出しているのかを理解できるようになります。それは単なる意味を超え、分析する力や自分自身の感性を言語化する力につながります。また、他の軸——メディア史、哲学思想、文学・アート——と横断しながら研究を深める際にも、強力な基盤となります。
「メディア経験の分析」は、日常の中で無意識に受け取ってきた体験を、メディアの側から捉え直す研究です。そこで見えてくるのは、単なる「メディアの良さ」だけではありません。分析するからこそ、その体験を生み出している構造の「歪み」が同時に浮かび上がってきます。私たちが便利さや心地よさとして受け取っているものの裏側には、必ず別の影響や制約が存在します。その問題に気づくことで、メディアが決して完成された存在ではなく、課題を抱えながら変形し続けているものであることが見えてきます。この研究軸は、メディアを肯定するためだけの視点ではなく、より良い未来へ向かうために「この世界で何が起きているのか」を問い直す視点を与えてくれるものです。